「いこち」とは・・・?

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ちょっと想像してみて。

あなたはバンドマン。ベースを弾いている。
ボーカルは、高校時代の同級生。
モヒカン刈りのパンクロッカーだ。

ある日、そのボーカルがバンドをやめると言い出した。
その理由が「女になるため」だったとしたら。





実際にこんな体験をしたのが、現在「いこち」のベーシスト、湊恒太(ミナトコータ)。
今から7年前の出来事だ。

もちろん、そんなことを言われて、恒太はとても驚いた。
でも、そういうことなら、その世界でがんばって、ということでバンドは解散。
ボーカルの「彼」は、「彼女」になって、新宿二丁目のゲイバーで働き、ニューハーフ
としての人生をスタートさせた。

そして数年後。
「彼女」は、またバンドをやりたいと言って戻ってきた。
ニューハーフでバンドをやるということは、他にはないし、すごく面白いなと思って、
恒太はぜひやりたいと快諾。
こうして今から3年前、新しいバンド「いこち」がスタートした。
(「いこち」という言葉に、特に意味はない―響きがよかったので付けたそうだ)
メンバーは、ボーカル&ギターの蠍(さそり)ちか子、ベースの湊恒太、そして、激しい
演奏スタイルとは対照的に、素顔は穏やかで腰の低い、ドラムの蟻田(アリタ)大輔を
加えた3人編成となった。

ちか子が、モヒカン頭でシャウトするパンクロッカーから、胸のふくらみを持つ、艶やか
な髪を美しく結い上げた、スタイリッシュな女性へと変わったことで、バンドの音もまた
それに伴って変化した。
彼女の書く曲の、根本的な部分は変わらないというが、男から女の声になったことで、
高い声も出せるようになり、よりきれいな歌い方ができるようになったという。

彼らの音楽は、パンクとロカビリー、そして昭和の歌謡曲とが混ぜ合わされている。
曲とともに、ちか子は肩を露出したイブニングドレス、恒太と蟻田は、アイラインを引き、
タキシード、モーニングに身を包んだレトロな装いで、いこちの世界は完成する。

ライブは、激しいロカビリーから、ジャズテイストの感傷的な歌へと展開して行く。
ちか子は圧倒的な存在感を放ち、恒太のウッドベースと蟻田のドラムは、安定感のある、
スタイリッシュなリズムセクションを形成する。
男のものとも女のものともつかないちか子の声は、時にあふれ出す感情で叫びに変わり
ながら、さまざまな愛と喪失を歌い上げる
愛―それは、ストレートの人間にとっても十分に厄介だが、ニューハーフの世界では、
それ以上に複雑で、難しいものである。

「朝食」というバラードで、ちか子は妻子ある男性との情事を歌う。
「夜が明けたら、彼は家族のもとへ帰って行ってしまう。
朝が来るまで、彼と一緒に過ごせるひとときのためだけに生きる、そんな気持ちを歌った
歌です」


「自分達のようなバンドは他にないから、ライブハウスでも歓迎される」

ニューハーフのちか子にとって、恋愛に幸せを見出すというのは、他の人達よりも大変な
ことだと、恒太は語る。
だから彼女の歌には、巷にあふれる多くのラブソングには見られない、純粋さと、愛する
ことの悲しみ、詩情が感じられるのだという。

日本のテレビには、数多くのニューハーフのタレントが登場するが、いこちは、恐らく日本で
唯一のニューハーフのバンドではないかと、恒太は言う。
ちか子によれば、普通、男から女に変わろうと努力している時には、ロックバンドで演奏する
というような、男の子っぽいことをしようとは思わない、何かもっと、女らしいことをしたいと
思うものだからだそうだ。
さらに恒太は、ニューハーフの人達にとって、女になるという行為自体があまりにも大変な
ことなので、他のことをしようという気にならないのではないかと言う。
ちか子はゲイバーでの仕事を終えて、今は、OLとして働いている―それは、多くのニュー
ハーフにとって究極の目標である、どこにでもいる平凡な女性の生活である。

いこちは、インディペンデントレーベルのアウトブレイクレコードと契約しており、新宿二丁目
のみならず、都内各所のライブハウスで活動している。
熱狂的なファンの中に、ジョー・ヘイというオーストラリア人がいる。
東京で4年にわたって生活し、いこちの成長を見守ってきた彼は、この度いこち初の海外公演
を実現させた。
今年の11月、世界有数の同性愛者のイベント、"アデレード・フィースト・フェスティバル"初日
のライブを含む、およそ2週間のオーストラリアツアーである。

これまでのところ、「ニューハーフのバンド」という、いこちの独自性は、あらゆる方面でプラス
に働いているという。
「私達みたいなバンドは他にはないので、どこのライブハウスでも歓迎されます」とちか子は
言う。
「偏見の目で見られるようなことも全くありませんでした。それどころか、ライブを終えると、
音楽がすばらしかったので、男だとか女だとかいうことはまるで気にならなかったと、よく言わ
れます。
でも"ニューハーフのバンド"というアイデンティティは、いこちに興味を持ってもらうきっかけに
なるので、私達にとってメリットだと思っています。」

---
「メトロポリス」689号、音楽ライター DAN GRUNEBAUMによる紹介記事と、ポッドキャスト
の湊恒太インタビューをもとに、若干の補足を行いました。掲載記事を正確に翻訳したもの
ではありませんので、あしからずご了承ください。
万が一、内容に不正確な部分などありましたらご指摘ください。よろしくお願いいたします。

いこちHP http://www.ikochi.com/
by hoku_shirushi | 2007-06-11 04:32 | 音楽


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